【小説】雷の季節の終わりに 恒川光太郎

少年は、世界を渡る旅に出た。新星・恒川光太郎の傑作異世界ファンタジー。

現世から隠れて存在する異世界・穏(おん)で暮らすみなしごの少年・賢也。穏には、春夏秋冬のほかにもうひとつ、雷季と呼ばれる季節があった――。著者入魂の傑作長編ホラー・ファンタジー!

ネタバレ注意!

「夜市」の恒川光太郎の二作目の伝奇ファンタジー!

本日はデビュー作の夜市で大絶賛された恒川光太郎の第二作目である、雷の季節の終わりにを紹介します。

前回の夜一が素晴らしい作品でしたので恒川光太郎の第二作目である本作も手に取ってみました。本作を読んでみて思ったのは、「相変わらず、この作者は懐かしさを感じさせる文体が非常に上手い!」です。

舞台は「穏」とよばれる、我々の現実世界である「下界」とあの世の間に存在する異世界であり、雷の鳴る季節に人が攫わられていくといった怪奇現象が存在するものの、現実の田舎町とよく似た雰囲気の町です。

物語は章ごとに分かれており、それぞれの章に〈キャラクター名〉が振られており、その章はそのキャラクターの視点で進んでいくことになります。

郷愁感の漂う世界観

主人公の賢也は、「穏」の老夫婦に育てられた男の子です。彼には姉がいたのですが、雷の鳴る季節に何処かへと消えてしまいました。その為、彼には肉親がおらず、小さいころは近所の悪ガキ達にイジメられていましたが、穂高と遼雲という幼馴染のお陰で、それなりに幸せな幼少期を過ごすことが出来るようになります。この辺の穂高と遼雲との交流は、幼少期のころの友達を思い出させてくれて大好きです。

特に穂高は、少年とも少女ともつかない中性的な少女で、とても快活で主人公のことも気にかけてくれます。「自分がもしも子供の頃にこんな幼馴染がいれば…」と読んでいて妄想させてくれました(笑)

「穏」の風景描写も、雷や田んぼ、海辺、綺麗な泉などまるで本当の田舎にいるかのように錯覚するほどに丁寧であり、それに加えて妖怪や幽霊など、あの世であることを意識させるような描写もしっかりとされており、独特の幻想的な世界観が構築されています。

主人公の賢哉も、孤児ではありますが、遼雲や穂高、「穏」の門番を行う大渡、そして後述する「風わいわい」という登場人物達に気にかけてもらっているお陰で、それほど暗い雰囲気にはなりません。

現代と「穏」を交互に行き来する物語

賢也以外にも視点が交代することがあり、例えば現代世界では茜という女子中学生へと視点が変わることがあります。茜は母親を事故で失い、父親の再婚相手である継母から虐待を受けて育ちます。彼女は継母のことが大嫌いであり、ある日ひょんなことから、継母と大喧嘩をして家を飛び出します…

この現代世界での物語の進行は唐突であり、最初は少し戸惑ったのですが、読み進めていくと茜というキャラクターの正体がわかり、賢也の生い立ちや、本作のラスボスでもあるトバムネキというキャラクターの詳細が判明します。

また現代編で、なぜ賢也に「風わいわい」が取り憑いたのかが明らかになり、物語全体の構造が掴めるようになっています。

ただ賢也と茜以外にも、敵キャラクターの視点に代わることもあるのですが、その数は賢也と茜に比べれば少なく、もう少し丁寧なキャラクターの解説も欲しいと思いました。

風わいわいの魅力

この風わいわいこそが、この作品の最大の魅力と言ってもいいでしょう!

風わいわいとは生き物に取り憑く鳥の妖怪のような存在であり、取り憑いた生物と感覚を共有することになり、風わいわいは時に宿主の為に魔力を使うこともあります。

この風わいわいは雷が鳴る季節に、賢哉が姉と離れ離れになってしまうのと入れ替わりに、彼の体に取り憑きました。それ以降、彼に手助けをしてくれるようになるのですが、まるで母親か姉のように賢也を優しくあやしてあげる姿はとても魅力的でした。例えていえば、ヒカルの碁のサイみたいな感じですかね。

総評

夜市のような、郷愁感漂うような世界観は本作でも健在です。

キャラクターの視点が変わることが多いのに、少し混乱する面もありますが、夜市が気に入ったならば、きっと本作も気に入ると思います。

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