【小説】尻すぼみに終わってしまう王道ホラー:墓地を見下ろす家 小池真理子

新築・格安、都心に位置するという抜群の条件の瀟洒なマンションに移り住んだ哲平一家。問題は何一つないはずだった。ただ一つ、そこが広大な墓地に囲まれていたことを除けば…。やがて、次々と不吉な出来事に襲われ始めた一家がついにむかえた、最悪の事態とは…。復刊が長く待ち望まれた、衝撃と戦慄の名作モダン・ホラー。

名作中の名作との呼び声高い作品、しかし…

本日紹介するのは小池真理子の墓地を見下ろす家です。本作はモダンホラーの金字塔との呼び声が高い名作中の名作と言われている作品のようです。

だから僕は期待して読んだのですが、正直言ってやや期待外れであったというのが、正直な感想でした。

舞台設定についてはよくあるホラー物の王道ともいえる設定であり、序盤から中盤にかけては、様々な怪奇現象が起きてジワジワと登場人物たちを追い詰めていくような展開であり、目を離すことが出来ませんでした。

ただ終盤では、「えっ?これで終わり?」というところで唐突に終わってしまい、怪奇現象の正体にハッキリわからないまま終わってしまいます。

また登場人物達の設定が、あまり物語に反映されておらず、「結局何だったの?」という思いも抑えられませんでした。

墓地と火葬場に囲まれた格安マンション

本作の舞台になるのは、8階建ての小奇麗なマンションです。都心に近く、駅まで徒歩10分程度、ペットOK、管理人在住でしかも相場の値段の半額以下という、言うことなしのマンションです。ただ一つ、墓地と火葬場に囲まれているという一点だけを除けば…

主人公一家は、破格の値段に魅力を感じてこのマンションの8階に引っ越してきた夫婦です。最初は彼らもこのマンションを気に入っていたですが、徐々に怪奇現象に苦しめられるようになってきます。

登場人物

主人公一家の妻、美沙緒は30代前半のフリーのイラストレーターです。彼女は優しくて気配り上手の女性であり、娘の玉緒に対しても常に愛情を注いでいる典型的なホラー映画の女性主人公ですね。

美沙緒の夫である哲平は、30代半ばで非科学的なオカルト話に対しては拒絶反応を示す、典型的な合理主義者です。こういうキャラクターもホラー映画には必ず一人はいる存在です。彼には弟である達二と、その妻である直美という弟夫婦がいます。物語は基本的に、この夫婦の視点を交互に切り替わることで進んでいきます。

この二人の間には玉緒という幼稚園児の娘が一人いるのですが、実はこの二人が結婚する前に哲平には玲子という妻がいたのです。美沙緒は不倫という形で哲平を玲子から奪い取るという略奪婚だったのです。

玲子はそのことに心を病んで自殺してしまい、二人はそのことにケリをつけるという意味も込めて、このマンションで新生活をしようと引っ越してきたのです。

ただ、この玲子が自殺したという話は特に物語に深く関わってくることは一切ありません。僕はてっきり、この玲子という女性の怨念が彼らを苦しめるのかと期待していたものですから、その点も肩透かしでしたね。

この他にも玉緒と同じ幼稚園に通う兄妹の母であるママ友の栄子や、管理人夫婦、このマンションに対して強い警戒心を抱いている住人である水商売風の女や、胡散臭い霊能力者の男などが登場します。

少しずつ迫る脅威

物語は一家が飼っているペットの小鳥が引っ越してきた直後に、急に亡くなっている場面から始まります。最初はそれほど気にしなかったのですが、その後も死んだ小鳥の羽が不自然な場所から見つかる、テレビの画面に奇妙な黒い影が映る、そして何より、このマンションの地下にエレベーターだけで繋がっている地下の物置に入ると奇妙な冷たい風を感じるなどの不可解な出来事が次々に起きます。

極めつけは、玉緒が栄子の子供達と地下で遊んでいる際に、玉緒が急に足から大量の出血をし、そのことを知らせにきた栄子の子供と共にエレベーターで地下一階に降りようとするのですが、なぜか急にエレベーターが動かなくなってしまい、玉緒は地下に閉じ込められてしまいます。

美沙緒と栄子は管理人夫婦を呼び出して何とかエレベーターを動かそうとしますが、全くビクともしません。そこに現れた、このマンションの住人である、ヨガなどを研究しているという東海林という男が、エレベーターの扉に対して何やら呟くと、途端にエレベーターは動き出し、無事に玉緒を地下から救出することに成功します。

医者の推測によれば、カマイタチによって玉緒は怪我をしたのではないかという見立てですが、地下には風を通す穴も無ければ、鋭利な刃物も存在していません。

後日、美沙緒と哲平は東海林の元へとお礼に参りますが、東海林は「このマンションには邪悪な気が集まっている為、あなた達もはやく引っ越した方がいい」と忠告し、そのまま引っ越してしまいます。

ここら辺の、次に何が起こるのかがわからない緊迫感は、かなり読み応えがありました。

引っ越しを決意するマンションの住人

哲平は、妻からのマンションに対する不安など全く信じようとせず、同じマンションに住んでいて、もうすぐ引っ越すことになる水商売風の女からの「このマンションの地下は怖い」という忠告も一笑に付します。

彼はある日、管理人夫婦から「地下から物音するので確かめる為に、ついてきて欲しい」と頼まれます。それを承諾して地下に乗り込むことになるのですが、急にエレベーターが動かなくなって閉じ込められてしまい、地下の電気が点かなくなってしまいます。

哲平と管理人夫婦は恐怖で気絶、放心状態に陥ってるところを美沙緒たちに助けられます。この事件を切っ掛けに、マンションの住人達はついに、マンションからの引っ越しを決意するようになります。

しかしマンションからの引っ越しを決意した住人を、まるで引き留めるように次々と怪奇現象が頻発するようになります…

ここら辺の次に何が起こるのか?という恐怖は読んでいてかなりのものでしたね。エレベーターに乗って一階に降りようとしたら、そのまま一階には止まらずに、地下へと引きずり込まれてしまうのではないかと、呼んでいてハラハラしました。

しかし、このあたりまでがこの作品の恐怖のピークでした。

尻切れトンボのような結末

美沙緒と哲平は、マンションに残る唯一の住人となり、紆余曲折ありながらも引っ越し先を見つけ、弟夫婦の達二と直美の手伝いもあって、遂に翌日にはこのマンションからおさらばできると思っていたのですが、何と次の日になってみると、マンションから出ることが一切出来なくなってしまいます。

この辺から怪奇現象の正体が判明するのかと期待したのですが、最後まで曖昧なままであり、最終的に美沙緒たちはどうなってしまったのかもわからない打ち切りのような終わり方をしてしまいます。

そこらへんにもっと決着をつけた終わり方を期待していたので、とても残念でしたね。

総評

舞台設定や登場人物達は、ホラーの王道ともいえるものでしたので、それだけにその設定を十分に生かし切れていないところが残念でした。

オカルト系の怪奇現象が好きな人は一読するのも良いと思いますが、終盤の展開に強い期待を抱くとガッカリしてしまうかもしれません。

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