【小説】旅のラゴスの永遠版:永遠を旅する者 重松清

一千年の命。戦乱。平和。憎しみ。愛――
果てしなき放浪の中で男が目にしたものは。

『ファイナルファンタジー』坂口博信 『バガボンド』井上雄彦 との絆から生まれた壮大なる命の賛歌

カイム。永遠の生を生きる男――すなわち、死ねない男。数えきれないほどのひとの誕生と死を見つめながら一千年の旅をしてきたカイムがかつて訪れた町、出会った人々。あまりにも短くはかない、だからこそまばゆい、人間の命の輝きがそこにある。ゲームとのコラボレーションから生まれた一期一会の奇跡の物語。

不老不死の旅人が主人公の物語

今回紹介するのは、重松清の永遠を旅する者です。この作品はXbox360で発売されたRPGであるロストオデッセイに収録されている「千年の夢」という主人公のカイムの過去の記憶をサウンドノベルという形式の短編集で、それを文庫版として発売したのがこちらの永遠を旅する者なんですね。

最初に言っておくと、僕は原作のゲームについては一切プレイしたことがありませんし、内容も全く知りません。ですが本作はゲームを知らなかったとしても、ゲームの世界の専門用語は殆ど出てきませんし、これ一冊だけでも十分楽しむことが出来ます。

本作の主人公であるカイムは外見こそは30歳前後ですが、実際には1000年以上もの永い年月を生きてきた不老不死の存在です。本作はそんな彼が過去の出来事を回想するという形で様々な人々との出会いや別れが、不老不死である彼独自の視点から語られていきます。

永遠に目的もなく旅をする意味とは

本作には前書きとして、著者である重松清自ら、「本作は永遠の旅をしてきた男の物語であるから、どのエピソードから読んでも問題はありません」という注意書がされています。

その言葉通り、本作の各エピソードはそれぞれが完全に独立しており、きみの友だちなどのようにそれぞれの話がリンクがしているということも全く無いため好きな話から読み進めることができます。

主人公であるカイムは理由は明らかにされていませんが不老不死の旅人であり、決して死ぬことができません。そうやって聞くと、とても憧れますが、しかし不老不死であるからこそ彼は誰かと共に生きていくことが出来ず、とても孤独な存在です。

最初に出会ったときには「カイムおにいちゃん」と慕っていた子供が、次に出会ったときには皺だらけの背中の曲がった老人となっていたということもしょっちゅうです。

カイムは本当に多くの人々と出会いますが、その全ての人間と必ず永遠の別れを体験することになり、それはこれからも未来永劫続くのだという切なさと同時に永遠に孤独であるという無限ループ的な恐怖も同時に感じました。

本作を読んでいて感じたのは、旅のラゴスとはまるで対照的な構成であるということでした。旅のラゴスは短編集ではなく一本の長編を通じて、ラゴスという人間の一生を疑似体験するような物語です。旅のラゴスの主人公であるラゴスはカイムのような不老不死ではありません。その為、盗賊に追いかけられれば死に物狂いで逃げますし、普通に周囲と同じように老化していきます。もちろんラゴスにも人生の場面によって旅の目的は存在しますが、つまるところラゴスにとって旅とは人生そのものであり、生きる意味そのものなんですね。

ところが悠久の時を生きるカイムにとっては、旅とは何の意味もなく、ただ風に身を任せるようにただ放浪しているだけに過ぎないんです。ラゴスは自分を待ってくれている人々と再会する為に、限られた時間を精一杯生かそうと旅をしようとします。しかしカイムには彼を待ってくれている存在など、無限の時間の中では存在しない等しい存在です。彼にとってはたとえ実の娘であったとしても、次に訪れた際には数百年前の歴史の中に埋もれてしまった存在でしかありません。

本作では不老不死であるカイムという存在がいるからこその世の中の無常さというものが際立ちます。

カイムという主人公について

本作の主人公であるカイムがなぜ不老不死であるのかについては、本編では全く明らかにされていません。おそらくその辺はゲームをプレイしてみたらわかるのかもしれませんね。

カイムは大変腕がたつ傭兵であり、基本的には戦場で戦って稼ぎを得て次の旅の為の費用を貯めて別の場所へと再び去っていくのですが、時には波止場で荷物の積み荷を行ったり、刑務所の看守をやったりしても日銭を稼いでもいます(まぁ不老不死ならば、別に働く必要なんて無いと思うのですが…)。

彼は不老不死である為に病や怪我で死ぬ心配が無いために、戦場ではどこに行っても一目置かれる強者です。そんな彼は元々の性格か、もしくは不老不死であるからなのか、非常に無私無欲な人物であり、出会う全ての人間に対して誠実に優しく接します。彼は誰からも強い人間だと思われていますが、そんな彼にも激しく動揺してしまうことが一つだけあります。

ほんとうにすべてを見抜く神なら、カイムに「過去」の光景を見せるような真似はしない。カイムが何よりも心乱され、たじろいでしまうのは、むしろ、はてのない「未来」を見せつけられる瞬間なのだ。そしてー。おまえはなんのために生まれてきた?その一言を問えば、カイムの膝はたちまち崩れてしまうはずなのに。

カイムは良い意味で人間味が無い人物ですが、このシーンで初めて僕はカイムに共感を抱くことが出来ました。

死ぬとどうなってしまうのだろう?死後の世界はあるのだろうか?あるとしたらそれはいつまで続くのだろうか?それとも無になるのだろうか?無が永遠に続くとはどんな感じなのか?など、

誰しもが子供のころに考えて怖くなり、大人になってもなるべく考えないようにする問題である、「なぜ自分は生きていて、何のために存在するのか?」という疑問に行き着きます。

もちろん我々はカイムのような不老不死ではなく寿命がありますが、形而上学的な問題について考えていくと、必ず無限という問題に突き当たるものなんだと思います。

カイムは僕なんかとは比べ物にならないぐらいに強く、無欲で優しい人間である為、正直言って共感を抱くことが難しいキャラクターなのですが、そんな彼でさえ「自分は何のために生きているのか」と思い悩む姿は唯一人間として深く共感できる部分です。

カイムと出会う人々

カイムは長い旅の中で多くの人間と出会ってきましたが、その全ては遠い昔に死んでしまった人たちです。彼らはカイムのような強い人間ではなく、むしろ弱い人たちばかりです。でもだからこそカイムという異質な存在とは対照的に人間味があり、共感できる人間たちばかりなのです。

悪事をして故郷の母親の元へと帰ろうとする悪漢と、そんな息子をただ待ち続ける母親…

妻を旅商人に奪われ酒におぼれて、息子に当たり散らす父親…

カイムに対して思いを寄せていたが、カイムの力添えでもう一人の男と結婚したものの田舎特有の排他的な生活にななかなか馴染めない女性と、そんな妻と家族の間で板挟みになって苦しむ夫…

ファンタジーであることを除けば、現実にも実際にいそうな人間達ばかりが登場します。彼らは悩み、苦しみながらもカイムとの僅かな交流の時間を経て、人生を良い方向へと傾けようと努力して、それぞれの人生を懸命に生きようと足掻きます。

しかしカイムだけは、そんな彼らと同じ人生を歩むことは絶対に出来ず、ただ孤独に永遠に生き続けなければならないことが読み進めていくほど強く思い知らされます。

個人的に僕が気に入ってる話が「嘘つきの少女」というタイトルなんですが、この話に出てくるまだ10歳にも満たない孤独な幼い少女は嘘ばかりをつくとして町中の嫌われ者です。彼女は八百屋に居候しているカイムに対してしきりに話しかけ、自分がいかに幸せであるのかという嘘ばかりをつくんです。

カイムはその全てが嘘であることを分かっているんですが、それに対して追及を行うこともせずにただ黙って少女の話を聞いてやるんです。個人的にこのエピソードのカイムが僕は一番好きなんですね。特にカイムが嘘や悪口について考える、

嘘や悪口というのは不思議なものだ。それらは、話し手がいるから成立するわけではない。その話に耳をかたむけ、相槌を打つ聞き手がいるからこそ、嘘は嘘として、悪口は悪口として成り立つのだ。真の意味で孤独なひとには、誰かの悪口を言うことはできない。嘘も同じだ。

この文が特に印象に残っているんです。少女は真の孤独に陥ることが怖くて、誰かに自分の嘘を聞いてもらいたくて、一生懸命に嘘をつき続ける姿と、それを黙って聞いてやるカイムの姿に胸が打たれます。

総評

ゲームが原作の小説ですが、専門用語などは殆ど出てきませんし、これ一冊としても読み物として完結しています。火の鳥や人魚の森のような、不老不死になってしまった人間の苦悩を描いた作品を読みたいならば、本作を一度読んでみてはいかがでしょうか。

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