【小説】吃音である村内先生が教えてくれる大切なこと:青い鳥 重松清

村内先生は、中学の非常勤講師。国語の先生なのに、言葉がつっかえてうまく話せない。でも先生には、授業よりももっと、大事な仕事があるんだ。いじめの加害者になってしまった生徒、父親の自殺に苦しむ生徒、気持ちを伝えられずに抱え込む生徒、家庭を知らずに育った生徒──後悔、責任、そして希望。ひとりぼっちの心にそっと寄り添い、本当にたいせつなことは何かを教えてくれる物語

心に傷を負った子供たちの再生を描いた短編集

本日紹介するのは、重松清の傑作のひとつ青い鳥です。この小説を読んだのはつい最近なんですが、「重松清のファンを自称してたのに、こんなにいい本をまだ読んでいなかったとは…!」と後悔したものです。本作はいくつもの心に傷を負った少年少女達がそれぞれ主役を務めるオムニバス形式の短編集です。

唯一、全話に共通して登場してくるのが「カ行」と「タ行」と濁音がつっかえてしまう、重度の吃音持ちである中学校の臨時教師である村内先生です。

村内先生は本作の狂言回しのような存在として、様々な悩みを持った主人公達を導いていくことになります。

理想の「スーパーマン」からは程遠い存在である村内先生

この村内先生は吃音であることから、人に言葉を伝えるのが苦手であり、また風貌的にも全くパッとしない普通の中年男性教師です。そのせいか、作中でも生徒から侮られがち描写がされており、上手くしゃべれないことを「ムラウチ病」などと呼んでひやかす生徒もいます。

授業の進行も吃音のせいで聞き取りずらいですがその代わり、毎回の授業ごとに要点をまとめたプリントを配り、丁寧な板書をとり、そして生徒との日誌では他の先生では考えられないぐらいにびっしりと返事を書くという大変筆まめな先生です。 そして何より、村内先生は心に傷を負った生徒の心に寄り添うように、真摯に生徒たちと向き合ってくれます。

そんな先生のことをときに疎ましく感じてしまう生徒もいますが、しかし彼が訪れる学校で、彼を必要としている存在の為に、常に一生懸命喋ろうとしてくれます。

もしもこんな先生が自分の中学時代にいたとしたらと想像するんですが、もしかしたら僕は「ウザい先生」だと感じてしまうかもしれません。吃音で聞き取りづらいからというのもあるんですが、村内先生は余り考えたくない、なかったことしたいと思うような嫌なことであったとしても、かなり無遠慮に突き付けてくるからです。

実際に作中でもそんな先生をウザいと思って嫌う生徒たちもいるのですが、嫌な事から逃げ続けてると、どんどん居心地が悪い場所へと落ちて行ってしまうんですよね。村内先生が疎まれながらもしっかりと現実を突きつけ、そして生徒たちを諭し、最終的には全ての話が光が射すような救いのある結末へと導いていく姿は、全く新しいヒーロー像を見ているような気持になりました。

相変わらず上手い思春期の子供達の心理描写

この本には、過去にイジメの加害者として告発を受け人前で喋ることができなくなってしまった少女、交通事故で人を死なせてしまった父親を持つ少女、クラスメイトをクラス全体で自殺未遂に追い込んでしまったクラスの少年などそれぞれ全く違う境遇の8人の子供達が主役として登場します。

そして性別や境遇に関わらず、誰もが思春期の時に抱いていた悩みが実に巧みに表現されているんです。

特に僕が好きな話であり、題名でもある「青い鳥」では、クラスメイトを自殺に追い込んだとして断罪を受けた生徒たちの1人である主人公が生徒会室の中で教師に対して誰かを嫌うことはイジメなのかと問う場面があります。その場面で傍にいた村内先生が皆の前で言う、

「いじめは……ひとを、きっ、嫌うから、いじめになるんじゃない。人数がたっ、たっ、たくさんいるから、いじめになるんじゃない。ひとを、踏みにじって、くくっ、くっ、苦しめようと思ったり、くくっ、くっ、くっ、くく苦しめてることにきっ、気づかずに……くくっ、くっ、苦しくて叫んでるこっ声を、ききっ、ききっ聞こうとしないのが、いじめなんだ……」

このセリフが強くに印象に残っていて、自分の中学時代に受けたイジメや、自分が行ったイジメなどを思い出しました。

重松清は、思春期の不安的な「危険な」時期の子供の心理描写がやはり抜群に上手いですね。「疾走」や「エイジ」もそうですが、これぐらいの年齢の子供達の心情や、息の詰まるような閉塞とした人間関係の苦しさなどが本作でもふんだんに描かれています。

「青い鳥」の主人公は弁護士を志す絵にかいたような優等生です。「ある事件」がクラス内で発生するまでは親にも殴られたことのないような中学生です。そんな彼のクラスの中には野口君というクラスメイトがおり、彼はいわゆる「いじられキャラ」であり、常にヘラヘラとしており周囲に逆らったり怒ったりすることが出来ない子供でした。次第にクラスメイトからの命令がエスカレートしてしまし、彼は実家のコンビニから商品を万引きしてくるようになってしまいます。そしてとうとうそれに耐えかねて自殺未遂を起こしてしまい、主人公を含むクラスメイトは周囲から断罪されます。

ここで重要なのが、主人公は決して野口君のことをイジメているという自覚は無かったということなんですね。確かに一度だけキシリトールガムのボトルをリクエストしてもらったことはありましたが、それも野口君がヘラヘラと笑っていて全く悲しそうではなかったからまるで罪悪感なんて持っていなかったんです。

人間って自分が他人にされたことって強く覚えているものですが、自分がしたことってあんまり深く考えないようにできてるんだと思います。皆、自分は悪くないって思いたいから。自分にとって都合が悪い方向に記憶を捻じ曲げる人間って多分いないでしょうしね(笑)。

そのときに上述の村内先生の「相手を嫌うからイジメではない、相手の気持ちを考えないようにするからイジメなんだ」というセリフは鋭く胸に刺さりました。

総評

本作はエイジやきみの友だちと同じく、思春期の子供達をリアルに描いた作品です。エイジやきみの友だちと同様に村内先生のおかげで、どの話も読後感は良く、気兼ねなく人にお勧めできる名作です。エイジやきみの友だちを気に入った人は是非手に取ってみてはいかがでしょうか。

余談

本作も実写映画化がされているんですよね。僕は見たことが無いのですが、村内先生が阿部寛というのはさすがにちょっと無理があるんじゃないかと思うんですが…(笑)

最新情報をチェックしよう!