【小説】死を前にして、過去に向き合う:カシオペアの丘で 重松清

肺の腫瘍は、やはり悪性だった―。40歳を目前にして人生の「終わり」を突きつけられたその日、俊介はテレビ画面に、いまは遊園地になったふるさとの丘を見つける。封印していた記憶が突然甦る。僕は何かに導かれているのだろうか…。『流星ワゴン』『その日のまえに』、そして―魂を刻み込んだ、3年ぶりの長篇小説。

ネタバレ注意

死を前にして過去と向き合う感動作、いささか設定の詰め込みすぎか

本日紹介するのは、重松清の流星ワゴンです。

本作は、肺ガンで余命が僅かとなった男が、自分のふるさとである、北海道の北都へと帰り、幼馴染たちや、家族、そして90歳を超えた祖父と人生の最後を過ごす物語です。

本作は典型的な感動長編作です。

妻や息子を残して、先にこの世を去らなければならない主人公の苦悩と、その周囲の人間との絆には感動させられるでしょう。

しかし、いささか設定の詰め込みすぎ感が否めず、上下巻の長編であるため、読み進めていくほど、お涙頂戴を狙いすぎている感が強くなり、後半は少し食傷気味でもありました。

幼少期に憧れた惑星探査機のボイジャー、幼少期からの夢である遊園地、妻に裏切られ娘を失った男、祖父との確執、等々…

数多くの興味をそそるような設定が沢山登場するのですが、その全てが”浅く広く”といった印象が強く、例えば祖父についても、流星ワゴンのチュウさんほどの印象の強さが無くて、勿体無いという感想でした。

末期ガン患者の最期を、さすがの筆力で描写されている

本作の主人公である、”シュン”は、北都を取り仕切る建設会社の”倉田”の御曹司であり、兄以上に、祖父の倉田千太郎こと”クラセン”から跡継ぎとして期待されていました。

しかし倉田千太郎は、過去にシュンの幼馴染であり、親友の”トシ”の父親を、炭鉱工事の事故で見殺しにしたという過去があり、そのことからトシの母親や、シュン、そしてシュンとトシの片思いの女の子であるミッチョから恨まれていました。

シュンは祖父に反発して、ふるさとを飛び出し、東京に暮らすようになり、結婚して妻と子供をもうけて、幸せに暮らしていました。

しかし肺ガンによって余命数か月の宣告を受けたシュンは、人生の最期に、自分の過去とケジメを付ける為にふるさとへと帰ることを決意します。

主人公のシュンが肺ガンを宣告されたときのショック、それが良性であると妻と共に必死に祈る姿、息子にいつそれを告白しようか思い悩む姿など、ガン患者の終末期の姿が克明に描かれています。

特にガンで弱っていく人間が、「存在感が薄くなった」という表現は、間近でガンで祖父を亡くした身としては真に迫る表現でしたね。

余りにも生かしきれてない登場人物、設定が多すぎる

しかし、本作では余りにも多くの設定を詰め込もうとしすぎた結果か、その全ての設定が浅いものとなってしまっている感がします。

例えば、幼馴染にはシュンとトシとミッチョ以外にもユウちゃんという人物がいるのですが、最後まで彼の存在意義がイマイチわかりませんでした。

その他にも、ユウちゃんの仕事仲間であり、過去にお婆さんを車ではねてしまったというミウさんや、娘を妻の不倫相手に殺害された川原さんなど、最後まで影が薄く、適当に話に入れておいたという雑さが否めませんでした。

特に、倉田千太郎が多くの登場人物に恨まられている理由については、根拠としてはかなり弱く、かなりもったいなかったと思います。

それ以外にも、幼少期からの夢であり表題でもある遊園地”カシオペアの丘で”や、倉田千太郎が罪滅ぼしに建てた観音像、シュンとトシとミッチョの三角関係、惑星探査機ボインジャーなど、その全てが余り深堀されることはなく、作品全体のテーマを曖昧にしてしまっていたと思いました。

総評

本作はガン患者の最期を描いた作品としては、重松節が全開で、一定の読み応えがあるのですが、あまりにも設定を詰め込みすぎた結果、まとまりに欠けてしまったという印象があります。

重松清の作品が好きな方にはお勧めしますが、個人的には流星ワゴンや、その日の前にといった作品をお勧めしますね。

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