【小説】人生とは旅そのものである:旅のラゴス 筒井康隆

旅のラゴス (新潮文庫) | 康隆, 筒井 |本 | 通販 | Amazon

遥か昔、黄色い惑星を捨て「この地」へとやってきた人間達…

先祖の発達した機械文明は著しく衰退したが、その代わりに人々は超能力を手にしていた。

24歳の青年であるラゴスは、南の土地への旅が目的とし、放浪していた。

彼は様々な土地で、様々な人々と出会い、そして別れていく。

彼の68歳までの姿を描いたSF界の巨匠によるSFファンタジーの傑作

時をかける少女の筒井康隆の大ヒット作品

今日紹介するのは時をかける少女で有名な筒井康隆によるSFファンタジー小説の旅のラゴスです。

筒井康隆は、かなり有名な日本SF界の巨匠なんですが、実は僕は筒井康隆の小説を読むのがこれが初めてだったんです。この作品、少し前にスタジオジブリでアニメ化されるという噂が流れて(結局デマだったようですが)、一時盛り上がったり、出版から何十年もたった後に急に売れ行きが伸びだしたりと、かなりのロングセラー小説みたいですね。

僕は時をかける少女はアニメ版しか見たことが無かったのですが、筒井康隆はSF界の巨匠であるということもあり、特に何の理由もなくこの小説を手に取って読んでみました。

「この地」と呼ばれる架空世界

最初に読み始めて正直な感想として抱いたのが、もう何を言ってるのか全くのチンプンカンプンだということでした(笑)。

だっていきなり、スカシウマ」だの「ミドリウシ」だの、「空間転移」だのと聞いたこともないような用語が当たり前のように飛び出してくるんですから、混乱しない方が無理があるというものです。

舞台となるのは、遥か数千年前に人類が黄色い惑星(恐らく地球ではない)を捨ててやってきた、「この地」と呼ばれる惑星であり、かつては高度な機械文明を有していたがすぐに衰退し、その代わりに獲得した超能力によって成り立った中世ファンタジーのような世界観です。

超能力には空間を瞬間移動する力の他にも、他者の精神と同化したり、空を飛んだり、会話を記憶したといった人によって様々な能力が存在するようです。

その他にも架空の土地名や、動物名が最初から何の説明もされずに登場するものでしたから、最初は世界観を掴むことに苦労しました。

主人公のラゴスについても、南の土地へと旅をすることが目的であるということはわかるのですが、それは一体なぜなのか、そもそも彼はどういう素性の男なのかという点については中盤にならなくてはわかりません。

ですから僕がこの小説の面白さが掴めたのは、中盤である町でラゴスが書物に没頭する辺りからでしたね。

主人公のラゴスについて

主人公のラゴスは、24歳の青年であり南へと旅をすることが目的の風来坊です。彼は聡明で快活ですがシニカルな一面もある男であり、どこへ行っても一目置かれるような存在です。

彼は北の都市からやってきた人間であり、南の土地にある「この地」へとやってきた人間の先祖が残した書物を求めて旅をしています。

本作では24歳から68歳までの彼の人生が描かれており、旅を通じての彼の内面の変化も本作の見所の一つです。

特に彼が先祖の残した書物の置いてある町へとやってきて先祖の残した書物を読み漁り、その町をそれによって得られた知識の力によって王国へと発展させていくことになるのですが、そこで彼は二人の女性のニキタカカラニを王妃として迎え入れ子供をもうけることなります。

その過程で、いつの間にかラゴスの一人称が「おれ」から、「わたし」へと変化しているのです。僕はいつ一人称が変化したのか、まるで気づくことが出来ませんでした。しかも彼の言葉遣いが段々と他者との会話の中だけではなく、彼の心理描写の中でも、老成したような印象のものへと変わっていくんです

こういったラゴスの心情の変化が、果たして読書によって知性が磨かれたからなのか、それとも子供をもうけて人の親となったからなのか、それとも歳を重ねたことによって落ち着きを得たからなのか、もしくはその全ての経験が混合したことによるものなのかは読者が想像するしかありません。

しかし、この当たりの演出の巧みさと筆力は、さすがは日本SF界の巨匠であるという思いを抱かずにはいられませんでした。

出会いと別れ

物語はラゴスが遊牧民のグループに迎えて入れてもらってる場面から始まり、ラゴスはデーデという少女と仲を深め、再び再会することを誓って一人旅を続けます。

その途中では本当に沢山の人々と出会い、そしてまた別れを経験をしていくことになります。時には悪党に追いかけられ、時には奴隷商人に捕らえられ、そしてまた時には王となったり…

その旅の途中の中で、ラゴスは本当に多くの人々と出会い、一期一会の縁もあれば、ラゴスが老年期となった後でも続くような長い縁もあります。

冒頭で出会った少女、デーデの他にも、未亡人であり予知能力のあるラウラ、町に住む少女であり後の王女となるニキタとカカラニ、そして兄嫁であるゼーラなど、様々な女性と深い仲となっていきます。

最終的にラゴスは自分の生まれ故郷である北方都市へと帰郷し、そこで数年の滞在をして両親の死を看取ってから、デーデとの再会の約束を果たすためにある画家が描いた「氷の女王」という絵を頼りに最後の旅へと向かうことを決意。

そして途中で自分と同い年ぐらいのどこか見覚えのある老人であるドネルという森番と意気投合し、共に暮らさないかという彼からの申し出を振り切る場面で物語は完結します。

旅とは人生そのものだ

本作には余り大きな見せ場といったものは存在しません。淡々とラゴスの旅の様子と彼の心情を描写するだけであり、最終的に彼がデーデと再会できたのかどうかも読者が想像するしかありません。もしかしたら人によっては肩透かしをくらうような内容だと感じるかもしれません。

しかし僕は読み終わったあとに、一人の人間の人生を体験したかのような壮大な気持ちとなりました。それは彼がなぜ自分は旅のするのだろうかという問いをドネルに応える姿から強く感じ取れます。

「わたしがここへ来てあんたと会えたのも、わたしが氷の女王にあこがれたからではないのかね。それにわたしは、そもそもがひとっ処にとどまっていられる人間ではなかった。だから旅を続けた。それ故にこそいろんな経験を重ねた。旅の目的はなんであってもよかったのかもしれない。たとえ死であってもだ。人生と同じようにね」

まさに旅とは人生そのものであり、人生とは旅のようなものなのです。だからこそ本作を読み終えたときに一つの人生の完結を見たかのような感動をすることができるのだと思います。

総評

最初は専門用語が多く、世界観を掴むことに苦労しましたが、中盤以降からは没頭して読み切ることが出来ました。ファンタジーが好きな方や、人生の無常さ、切なさを感じたいという人にはお勧めの一冊です。是非手に取ってみてはいかがでしょうか。

 

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